遺族専用列車

拙宅の大家のおばあさんが、戦死した兄が合祀されるというので、娘時代に四国の田舎から母親と二人で靖国神社春期臨時大祭に参加した。昭和18年4月のことである。
今春の映画『靖国』に対する上映妨害に憤慨したばあさんが、靖国神社やお役所からもらった資料類をタンスの奥からひっぱり出してきた。「アンタのインターネットで公開しておくれ」と頼まれて、いまだに預かったままなのでした。
ようやく仕事も一段落したので、かなりの量になる紙くず類を整理しはじめると、現役バリバリの「靖国英霊システム」の生々しい姿がうかびあがってきた。大家のばあさんへの罪滅ぼしもかねて、資料公開を再開します。


靖国神社臨時大祭参列遺族専用列車時刻表  >大きなサイズの画像は別途UPします。


ばあさんが住んでいたのは丸亀。往路で見ると――
4月19日
14:12 丸亀駅
18:10 宇高連絡船 高松発
19:15 同 宇野着
21:05 岡山発
4月20日
14:50 東京着
――と、丸一日かかる大旅行である。これは大変である。
時刻表の下の方に、往路のみではあるが、名古屋と沼津で駅弁も支給されていたらしい。

但し書きには、

1 参列者の一部には希望せざる旅行計画となる方もあると存じますが往復路共必ず指定する専用列車にご乗車下さい、座席は全部準備してあります
2 専用列車の運転区間外又は専用列車の停車せざる駅付近の方は市(区)町村の御世話に依り成るべく一段となり専用列車停車駅に先著[着]の上ご乗車下さい
*旧字は新字に、旧仮名遣いは新仮名遣いに、カタカナはひらがなにあらためました

とあるから、列車に乗るところからが遠足、最初っから団体行動が求められていたと思われる。

この時刻表は四国地域専用で、高知県愛媛県グループが19日発の専用列車を、香川県徳島県のグループが18日発の専用列車を利用するようになっていたらしい。いずれも日は違うが、岡山−東京間は同じダイヤで組まれていることからすると、四国からの遺族専用に2本の列車があてがわれたことになる。

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昭和17年11月に出た『鉄道省編纂 時刻表』(復刻版)を見てみると、山陽本線の上り岡山−東京間は

34列車 20:07 岡山発  翌14:25 東京着 
36列車 23:21 岡山発  翌18:40 東京着
――の2本があった。いずれも寝台や食堂車のついていない、普通の列車である。昭和18年春までダイヤ改正が行われていないと思われるので、この2本の列車の間に四国関係の遺族専用列車が2日間だけ走ったと思われる(前後の1便は運休した可能性もある)。

では、全国で何本の遺族専用列車が走ったのだろうか?

別途入手した「昭和十七年四月 靖国神社臨時大祭参列遺族乗車列車指定一覧表」を見ると、南は台湾から北は樺太まで、それぞれに臨時列車が仕立てられていたことがわかる。4月19〜22日におよぶ一覧表にはかなりの数の列車番号が掲載されている。しかし、乗り換え・直通のパターンが多岐にわたっており、数えるのは容易ではない。大きなサイズのスキャンデータを提供するので、どなたか鉄道史に詳しい方に解読していただきたいです。