安倍晋三・櫻井よしこ「対談」企画の不思議

7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件の前に執筆したものの、事件を受けて特集用の特別紙面が組まれたため掲載をとりさげた原稿ですが、もったいないので、その冒頭部分をここに掲載します。

 

右派論壇誌2誌の巻頭を同時に飾った

安倍晋三櫻井よしこ「対談」企画の不思議

 もともと『WiLL』編集長であった花田紀凱氏が編集部まるごと発行元のワックから飛び出し、2016年に創刊したのが『月刊Hanada』(飛鳥新社)だ。狙っている読者層も同じなら表紙のデザインも酷似、記事の書き手も重複しているという、ある意味とっても「なかよし」な2誌である。2022年8月号では、なんと両誌の巻頭をかざったのが安倍晋三元首相と櫻井よしこ氏との対談で、商業出版としてはびっくりな、なかよしにもほどがある企画のダブりぶりであった。

 『月刊Hanada』(以下、H誌)のほうは「「歴史戦」は真っ向から闘え!」をタイトルに、櫻井よしこが主宰するインターネットテレビ「言論テレビ」で今年5月に配信された対談を文字に起こしたもの。他方の『WiLL』(以下、W誌)は「防衛費GDP比2%は独立国家の覚悟の証だ」をタイトルに、故葛西敬之JR東海名誉会長の追悼と防衛費(=軍事費)大幅増額を訴えた不思議な対談である。両誌の対談をじっくり比べてみると、列挙された具体例が酷似しているばかりではなく、安倍氏と櫻井氏の発言が入れ替わっているところがあった。

 

【W誌】

安倍 日本学術会議が「軍事研究」に反対してきた影響もあって、大学では防衛に必要な研究ができていない状態です。(中略)

櫻井 米国の防衛費は実に百兆円です。軍事産業が米国経済を支えています。

 

【H誌】

櫻井 学術会議は学問の自由を謳いながら、軍事研究を禁じて、学問・研究の自由を阻害しています。(中略)

安倍 一方、アメリカは防衛費に百兆円出しています。

 

 W誌では「日本学術会議」を持ち出すのが安倍で、「米国の防衛費は100兆円」を付け加えるのが櫻井だが、H誌では「学術会議」は櫻井、「アメリカの防衛費」は安倍と、会話の役割分担がみごとに入れ替わっている。宿題のレポートがコピペだとバレないように微調整するのにも似た、涙ぐましい「工夫」をそこに見て取ることができる。

 参院選の直前に安倍氏が両誌巻頭に登場することにこそ意味があるのだろう。安倍氏の誌面への登場を首相退陣(2020年8月)以降の両誌でカウントしてみると、W誌8回、H誌10回にのぼる。「ヘイト雑誌」とも言われる右派論壇誌に、日本の首相経験者でここまで頻繁に登場しているのは安倍氏だけだ。そのうち、2021年10月の衆院選の直前には、「TOKYO五輪、金メダルものです!」(W誌2021年10月号、寄稿)、「中国の脅威とどう闘うか」(H誌同月号、対談)と、この時もなかよく両誌に登場していた。

 この安倍氏の独特な右派メディア活用には歴史がある。第一次安倍内閣崩壊以降も安倍氏は頻繁に右派論壇誌に登場し、その存在感をアピールしてきた。強固な「安倍支持層」の形成のためにしこしこ努力してきたわけである。

〔以下略〕