日本イデオロギー批判の先駆


戸坂潤『日本イデオロギー論』(白揚社版 昭和10年
すでに岩波文庫版で持っているのに、おまけに選集版でも持っているのに、なぜか買ってしまった白揚社版……。入手したのは昭和13年の11刷(!)で、あの時代でもかなり売れたのだな〜と感慨深い。紙型がすりへっているので、読みづらいこときわまりないのだが、うれしい一冊。この本と古在由重の『現代哲学』が、戦前の「唯物論研究会」が最後にはなった光芒と言えるだろう。
例えば――

以上「日本精神」に味到した人達の見解に接して見たが、少くとも今までに判つたことは、何が日本精神であるかといふことではなくて、日本精神主義たるものが、如何に理論的実質に於て空疎で雑然としたものかといふことである。日本精神といふ問題も日本精神主義といふ形のものからは殆んど何の解答を與えへられさうもないといふことが判つたのである。文部省下に國民精神文化研究所が出来ても、「日本精神文化」といふ雑誌が出ても、又日本精神協会といふものがあつてその機関紙「日本精神」が刊行されても、さうした日本精神主義による日本精神の解明は当分まづ絶望と見なくてはならないだろう。日本精神主義といふのはだから、声だけで正体のない Bauchredner*1 のやうなもののやうである。

というような「日本ナショナリズム」への鮮やかな切り返しなどは光っている。昨今の「ナショナリズム」論をめぐる議論の中で、さまざまな論者が登場しているが、ぜひ再び本書を参照項に加えて欲しいものである。

*1:腹話術師