戦争のための受験戦争――海軍兵学校の入試問題(3)

他方、海軍兵学校の入試科目は「英語、数学、国語及漢文、作文、物理、化学、日本歴史」と、陸士をしのぐ陣容(ちなみに明治時代の海軍兵学校では15科目、延べ30時間を費やして10日間にわたったというのだから、今から考えると中国の科挙なみのモノスゴイ入試である)。
 昭和18年度の段階でも、「英語」が入試科目であったことが特徴。入試英語廃止論に対して、海軍兵学校校長であった井上成美がつっぱねたおかげで残ったという逸話もある。江田島では昭和20年8月16日に英語の授業が行われたという記録も残っており、海軍はそれなりに英語教育はキチンとやっていたようだ。
 「英語」の入試問題も、英作文では、

「木下君は小学校以来の僕の親友である……彼は「人はいくら頭がよくても、身体が弱くては何事も成就できない」と言ってゐる」

――というもの。
 当時の受験雑誌の英作文練成コーナーでは、
「大砲や戦車や軍艦の数が勝利を齎す決定的要素とは限らない。多くの場合、戦ふものの不屈の精神が勝敗を決する」(『学生』昭和18年2月号)といったトンデモ例題が乱舞していたのに較べれば、比較的まともな部類に入るだろう。

一方「数学」では、

「潜行しつつある潜水艦がその西南1800米の海上を北に向かって毎分300米の速さにて航行中の敵運送線を認め、毎分150米の潜行速度にて直進して速やかに敵船の東方(正横)600米の点まで近付かんとす。その進むべき方向を作図せよ」

――と、いかにも海軍らしい問題もあって香ばしい。

また「歴史」の論述問題では、

「我が国が世界大戦(第一次)に関係した全過程(理由・経過・講和)に就いて述べよ」

――とあって、目下の主敵米英の「策謀」を主題とした陸軍の論述問題と対照的だ。が、陸軍の問題ならば、脳みそを皇国イデオロギー的になんとか加熱すれば答えがひねくり出せそうであるが、比較的客観的な論述を求める海軍の問題の方が少々難度は高いと言えるだろう。

もちろん、「作文」は帝国海軍の顔が向いている方をはっきりとあらわしており、お題はそのものズバリの

「大東亜」

である。しかし、「大東亜」とだけ言われて、受験生達は一体何を書いたのであろうか?