戦争のための受験戦争――受験戦士の健康相談(4)

この難関を突破するために、連日連夜の激しい受験勉強によって体を壊す“受験戦士”たちが続出した。実際、「受験生の健康」は受験雑誌における一大テーマであり、体操の励行から自慰の禁止まで、健康相談コーナーは今と比べ物にならないくらい活況を呈している。中でも「体が資本」の陸海軍学校志願者は、さまざまな健康上の不安を綴った便りを編集部に寄せた。
(以下、『受験と学生』昭和17年2月号「健康相談」コーナーより)

【問】父胃癌にて死亡、陸士受験如何
【答】胃癌は遺伝とも関係はあるが入学に支障があるとは思はれません。


――不安な気持ちもわからぬではないが、これはちょっと心配しすぎと言うものだろう。

【問】左乳下肋骨が一本一寸凹んでいるが陸士海兵等如何でせう
【答】疾病でなければ良いでせう


――激しく鋭い回答者の答えである! 

【問】軍医志望ですが身体検査の条件は如何でせう
【答】軍医になるには先づ医師となるに必要な体格が必要です


――うぉーこれもまた的確な回答!
などなど、どーでもいい神経衰弱的問い合わせが続く中、ひときわリアルな切実さを帯びているのが「ぢ」の相談であった。

【問】脱肛・痔疾裂傷等の対策及び海兵陸士等への入学如何
【答】便通を秘結させると脱肛や痔裂傷は悪くなる。又長時間の起立、乗車、歩行も悪い。軽い場合は外用薬で治る事もある。痔ろうは結核性が多いので注意を要する。痔は軍人には余り歓迎されないから、治さねばならぬ。

(『学生』昭和18年1月号 「健康相談」コーナー)

【問】痔の初期の症候、原因および対策如何。又陸士等の入学如何
【答】普通痔と云はれるものの中には脱肛・肛門裂傷・痔ろう・痔核等が総称されますが……(中略)……痔は陸士や海兵等では不合格となる事が必然の様です。

(『受験と学生』昭和17年2月号 「健康相談」コーナー)

 なんと陸士・海兵では「痔」主はそれだけで不合格であったらしい!「月・月・火・水・木・金・金」で受験勉強にいそしむ陸士・海兵受験生諸君の座りっぱなしの生活に、「痔」の病魔はきわめて近しい存在であった。今ならば、ヒサヤ大黒堂の不思議膏で人知れず直せばいいだろうと思うが、

「……それから、幕の中に入り、パンツを取って待ってゐますと、暫くして検査官が入ってきて、肛門をみます。勿論M検もここです。M検は極めて簡単です」
(「昭和18年度陸経(陸軍経理学校)体格検査の状況」世田正 『学生』昭和17年10月号)
――と「ケツの穴まで見られる」身体検査(「体検」)が入試とセットであった軍学校では隠しおおせるものではなかったのだ!