「日本人はみんな働け」

「日本人はみんな働け」 『小産業戦士の道しるべ』(上野縈一著、黒髪社、昭和18年8月刊)の章トビラ

国民学校を出たばかりくらいの少年少女向けに執筆された就職案内本。戦争前であれば、個人商店の店員や少年給仕などの「奉公」の道も選択肢にあったのだろうが、本書では直截に「軍需工場」の工員になれ、と叱咤激励している。「日本人はみんな働け」はその第1章で、「大東亜戦争」下での少国民の奉公の道は工場労働者になることだ、と切々と説いている。
少年少女向けということもあって、本文は懇切丁寧のきわみ。「工場とはどんなところか」「どんな仕事をするのか」「工場の生活」「賃金の話」と、平易な文章が続く。最終章は「産業報国会に就いて」で、すでにこの時代には「階級闘争偏重の労働運動を廃し……」なんて全然書かれておらず、もっぱら修養と報国の心得に費やされている。
決戦下での若年労働者達がどんな工場生活を行っていたのか、少なくとも勧誘はいかなる甘言を用いて行われたのかがよくわかる貴重な資料だ。
筆者の上野縈一は「富士通信機製造株式会社の勤労課長」。