トヨタ研究の伊原亮司氏が面白い

年度末で、ブログも書けないほどこき使われておりました。もうモニタがよく見えないくらい目が疲れており、ホントは本を読んでいるどころではないのですが、本をサカナに酒を呑んでいるうちに、面白い書き手を見つけた!

現代思想」7月号に、岐阜大学の伊原亮司さんが「トヨタの労働現場の変容と現場管理の本質――ポスト・フォーディズム論から「格差社会」論を経て」という文章を書いている。今号は〈ポスト・フォーディズム〉を取り上げた今さら……な特集なのだが、ダントツで伊原氏のものが面白い。
何と言っても、「参与観察」で期間工としてトヨタに入り込み、四ヶ月間じっくりと「現場」を見た人だけあって、他の学者先生と違ったリアリズムがある。
で、この人の『トヨタの労働現場』(桜井書店、2003年)を読んでみたら、鎌田慧自動車絶望工場』とはひと味違った、工場的身体への考察がなかなか鋭いのです。

はしがき
序章 入社
第1章 工場・組・勤務形態
 I 工場の概要
 II 組の概要
 III 勤務形態
第2章 現場労働
 I 日常業務
 II 改善活動とQCサークル
 III ローテーション
第3章 現場労働者の「熟練」
 I 日常業務をとおして形成される「熟練」
 II 「キャリア」形成をとおして身につけていく「熟練」
 III まとめ−「熟練」の評価
第4章 現場労働者の「自律性」
 I 現場労働者の「自律性」の実態
 II 労働量の「規制」
 III まとめ−現場労働者の「自律性」の発揮と「規制力」の行使との関係
第5章 労働現場における管理過程
 I 機械・装置をとおして行使される権力
 II 職場運営をとおして行使される権力
 III まとめ−労働現場におけるコンテクスト
第6章 選別と統合−労務管理の実態と労働者の日常世
 I 選別
 II 統合
 III まとめ−緻密な管理の網の目
第7章 労働現場のダイナミズム
 I 職場におけるコンフリクト
 II 「受容」と「抵抗」のはざまで
 III まとめ−労働現場のダイナミズムとは
終章 退社−労働市場と労働現場
補論 日本の自動車工場の労働現場にかんする調査研究の動向−「熟練」にかんする議論を中心に−

Adobe奴隷のワタクシとしては、職場の形態はまったく違うけれども、読んでいてまったく身につまされるものがあった。これは買いですね。

伊原さんが翻訳した『人間不在の進歩』(こぶし書房、2001年)はラッダイト運動再評価の奇書。現代もボルヘス的秘儀のかたちでラッダイト運動は続いており、キーボードにわざとコーヒーこぼすことから始まる〈見えない抵抗〉を拾い上げる著者(D・ノーブル)の目配りには脱帽っす。



トヨタの労働現場―ダイナミズムとコンテクスト

トヨタの労働現場―ダイナミズムとコンテクスト

人間不在の進歩―新しい技術、失業、抵抗のメッセージ (こぶしフォーラム)

人間不在の進歩―新しい技術、失業、抵抗のメッセージ (こぶしフォーラム)