英語教育はなぜ必要か

「初級英語」研究社 昭和17年10月号を入手。
やはりこの時期にも受験英語はあったのだが、なぜ英語を勉強しなければならぬのかで、相当苦労した模様だ。「英語も日本語だ」論などが果敢に英語教育の継続を訴えたが、その他にどんな正当化論があったのだろうか。
この点、「初級英語」編集部は老獪で、このテのものは投書欄に掲載して「読者が熱烈に語る」という形式をとっている。研究社の中の人も大変だな。

大東亜戦争の偉大なる戦果を見よ、我等は奮起せざるを得ない。そうおして「御民われ」の感を深くするのである。而して蓋し二百年戦争ならぬ大東亜戦争を思う時英語の必要なるを痛感する。凡そ戦に勝つの要訣は必勝の信念を堅持することであるとか。つくづく察するのに必勝の信念は、己れを知り、敵を知りて後に、生れるのである。己れを知り敵を知るには是非とも敵国の事情を知る必要がある。敵の事情はその国語を知って初めて知ることが出来る。そうだ。我々はどうしても勝つ為に英語を勉強するのだ。
山口県小郡町農業学校寄宿舎 末富澄夫)

この末富君の投書の場合は、「敵を知るために英語勉強」論ですな。

全国の「初英」党よ、健在なりや。大東亜戦下、我々は国家の意思と目的を率直に理解して負荷や大任、即ち、学業に勉励しなければならない。その後は、云うまでもなく南へ雄飛するのだ。その準備としては是非英語を学習しなければならない、何となれば、南洋の各地は現在は殆んど英語が通用語であるからである。英語全廃とは何事ぞや。決然あらゆる困難を突破して成功の山へ進もうではないか。
(福岡県京都郡泉村 勝間田宏)

勝間田君は「英語は通用語だから英語を勉強」論だね。南方への雄飛をめざす帝国の青年らしいプラグマティズムだが、どうやら勝間田君はその夢をかなえ、南方に雄飛したらしい(これはホント。取材したのです)。

日毎に涼しいこの頃諸君も「初英」征服に余念のない事でせう。私は父と二人で漁業をやって居ます。出生した二人の兄を受けて私も甲種合格の栄を担おうと考えています。我々日本青年は須らく大東亜共栄圏の中堅となるべきだ。私達は英語を学ぶと共に、最後の最後迄やり抜くという忍耐力も併せ修行しなければならぬと思う。諸君、学習戦でも米英打倒だ。
別府市向浜上区 油布忠司)

油布君は「忍耐力獲得のための英語勉強」論で、大変珍しいご意見ですね。「諸君、学習戦でも米英打倒だ」という掛け声は元気があってよろしいが、学習戦なるものの勝敗はどうやって決めるのであろうか?