驚愕の『大東亜戦争祝詞集』



武田政一編 瑞穂出版株式会社 昭和18年9月

 「大東亜戦争」とは文字通り「神懸かり戦争」であったことを彷彿とさせる一冊であるが、その「神懸かり」ぶりの内容は、筆者の想像を超えていた。本書編者による「凡例」によれば、

本書は主として大東亜戦争開戦以来、約一年間に行はれたる戦争関係の祭祀の祝詞を編輯したるものにして、支那事変等に関する祝詞は、参考の為に収録したるに過ぎず。

とあるのだが、この「戦争関係の祭祀」で何をやっていたのかがビックリなのであります。

 とりあえず、「珊瑚海戦・ミッドウェー・アリューシャン列島攻撃奉告祭祝詞」なるものを見てみよう。


 画像でなんとか読めるでしょうか? 大本営発表祝詞にして神様に報告してるんですね。で、歴史的大敗となったミッドウエー海戦が、祝詞になるとこんなかんじになるわけです。

……太平洋真中奈留ミツドウエー沖航空母艦、烈支伎航空母艦ホーネツト型一隻、エンタープライズ型一隻撃沈、敵飛行機百二十機撃墜志氐、敵里志海上電撃隊志伎里奴

こういうのを万葉仮名というのでしょうか? 素人ながら読み下してみるとこんな感じです。

……太平洋の真中なるミッドウエー沖に敵の航空母艦群を誘い出し、烈しき戦の上に敵の航空母艦ホーネット型一隻、エンタープライズ型一隻を撃(ち)沈め、敵の飛行機百二十機を撃墜して、敵が言い誇りし海上電撃隊も空しき夢となり了(おわ)りぬ

 「祝詞」で神様に報告するんでしょうけれど、「ホーネット型」とか「エンタープライズ型」とか言われても神様には〈わかる〉というところがすごい。しかも大本営発表を、神様はそのまま真に受けてしまったわけですね。結果的には神様にも嘘をついているわけですな。途中までは淡々とした戦果の奉告ですが、ラストは「夢となりおわりぬ」なんて、イキな締め方ではありませんか。
 ともあれ、このような戦捷のおりおりに、各地の神主は祝詞を起草して神様に奉告祭を行っていたらしいです。で、こんな珍妙な祝詞がいくつも書かれる事になったわけですな。