天皇国大日本の完成

天皇国大日本の完成』中村三郎
発行:中村三郎(陸軍大尉) 昭和18年9月 自費出版・非売品

天照民族の責任

 今や、我が国は大東亜の諸州十億の民を率ひて、道義に基く世界新秩序の建設に乗り出した。方に八紘為宇の天照世界創造に邁進するのである。この際、我等天照民族こそ、わが絶対神聖なる天津日嗣の御本質を世界に宣明し、尊厳無比なる御国体の真姿を天下に全顕し、崇高深遠なる皇祖の天照道を人生に煥発し、金甌無欠の神国たる威徳を宇内に全顕し、天壤無窮の皇澤を顕幽の神人万有の均霑すべき天機到来の秋である。……(中略)……
 抑も我が国が万邦無比なる所以は、たゞ上に、至聖至尊の天津日嗣=天壤無窮の天皇が、儼として在しますからである。而して、天皇が国家創造の根原であり、天皇が国家組織の本体であり、天皇が国家生命の全体であり、天皇が国民生活の中心であり、天皇が民族信仰の絶対である。故に之を称して天皇国といふ。略して皇国と呼称す。天皇国であるからには、祭祀も政治も、教化も教学も、悉く天皇の神聖に淵源帰一し、天皇の大権に発動一体し、天皇の御稜威に天照統一し、天皇の照鑑に安心立命すべきものである。是れぞ皇国本然の真姿であり、皇民伝統の真情であると信ずる。


 嗚呼暑苦しい……。
 この本は戦局が傾きはじめた昭和18年に、当時の劣悪な用紙事情にもあかかわらず自費出版でわざわざ出されたもの。陸軍大尉であった中村三郎大センセイの“皇室に対する熱誠”のほどがうかがえます……としか言いようがない。
 これはもう宗教的熱情の吐露のレベルに達している。全ページえんえんこの調子で、戦没者の仏式葬儀はけしからん(これは当時問題になったらしい)からはじまって、仏教・キリスト教など神道以外の全宗教を廃止し……ととどまるところ知らない皇道哲学の独演会だ。まさに【皇国トンデモ本】の代表選手で、幸運にも古書店で見かけた人は即刻購入すべきである。
もし生き残ってたら、この人はどんな「戦後」を送ったのだろうか?