『婦人公論』の童貞狩り

古新聞をめくっていたら、盧溝橋事件直後の『婦人公論』誌の広告にこんなのがあった。


東京朝日新聞 昭和12年7月16日付


 「貞操と犯罪」号と銘打たれたこの号には「同性愛心中の秘密」「春の目覚めと少年の犯罪」「貞操危険信号」(なかなか秀逸な小見出し)が並ぶ。当時の婦人雑誌はこんなもんなのであまり驚かないが、数々のエロ記事のなかでひときわ目を引くのが、安田徳太郎博士による「現代大学生の童貞調査」である。

 これはすでに澁谷知美さんの研究などで取上げられているのかもしれないが、残念ながら私は未見。とりあえず、煽り文句がすごい。

男子を正しく理解することは結婚期の娘にとつても、結婚生活にある妻にとつても、子女をもつ母親にとつても實に大切なことである。この為に私は日本の青年の童貞観念及び童貞破棄の姿を客観的に科学的に一一六七人の青年、大学生を動員して七年間に亙つて苦心惨憺して調査した……

 博士もたいへんでしたね、とねぎらいの言葉をかけてあげたくなるほどである。
 気になる内容はというと――

童貞と性的苦悶
 童貞でゐる青年はどの位ゐるか
 童貞を守つてゐる理由
 童貞への自信は動揺する
 童貞で結婚した青年の感想
 初経験の年齢はどうなつてゐるか
 童貞を失ふ対象としての女子

童貞と性業婦
 童貞喪失後の告白

既婚者と童貞
 既婚者による童貞破棄後の変化

未婚者と童貞
 日本青年の初恋曲線
 初経験後の変化

――打ち込んでいてウンザリしてきたが、まことに充実した内容であったようだ。なかでも「日本青年の初恋曲線」というのはどんなものだかぜひ見てみたいものである。


 実はこの月、ライバル誌であった『主婦之友』は、特大別冊附録「娘と妻と母の衛生読本」を最大に売りにしてガンスカ新聞広告を打っていた。同附録が手元にあるが、B5判並製352ページに及ぶ分厚いもので、初潮から育児、日本婦人道徳にいたるまで懇切丁寧な一冊となっている。この冊子については別の機会に紹介しよう。
 ともあれ、夏のアバンチュールに備える一冊として下半身ネタで攻める両誌の競争は激烈であったようで、東京朝日新聞をみるだけでも『婦人公論』はこの月に3回もこの号の広告を打っている。2回目は広告スペースが小さいため、『婦人公論』編集部のイチオシが凝縮されたものとなった。


東京朝日新聞 昭和12年7月21日付


 デカイですねー、「童貞調査」の文字が。
 さらに3回目の広告になると――


東京朝日新聞 昭和12年7月24日付


 「童貞はどのくらゐゐるか」……当時は「処女」信仰との関連でもいろいろと事情があったのだだろうが、激しく日本青年の童貞度合いが気になるようですね。ここまで「童貞」を連呼されると、アピールする読者層が女性のみならず当の童貞男子諸君でもあったように思われる。