嗚呼!国民服

敗戦直後の大衆小説などを読むと、「カーキ色の国民服姿の男が……」といったフレーズをよく目にする。着るものがなくて、戦争中に誂えた国民服をいまだに着続けているというキャラクターを特徴付ける表現なのだろう。で、国民服とはどんな服なのか?

写真は『主婦之友』昭和15年12月号付録「勅令で新制定の国民服の作方」。
この「勅令」というのは、昭和15年11月2日に交付された「国民服令」というやつで、

第一条 大日本帝国男子ノ国民服(以下国民服ト称ス)ノ制式ハ別表第一ニ依ル

第二条 国民服ハ従来背広服其ノ他ノ平常服ヲ著用シタル場合ニ著用スルヲ例トス

第三条 国民服礼装ハ国民服ヲ著用シ国民服儀礼章ヲ佩ブルモノトス
2 国民服儀礼章ノ制式ハ別表第二ニ依ル

第四条 国民服礼装ハ従来燕尾服、フロツクコート、モーニングコート其ノ他之ニ相当スル礼服ヲ著用シタル場合ニ著用スルヲ例トス

第五条 国民服礼装ニハ佩用ニ関スル規程ニ従ヒ勲章、記章及褒章ヲ佩用スルコトヲ得

第六条 本令ノ制式ニ依ラザル服又ハ徽章若ハ飾章ハ其ノ名称中ニ国民服又ハ国民服儀礼章ノ文字ヲ用フルコトヲ得ズ

というモノ。大日本帝国男子が、背広などの日常平服や、燕尾服などの礼服までをカバーして代用する服装であったらしい。
本書巻頭には、国民服の性格について次のように謳われている。

このたび国民服令が勅令として発せられました。
このやうに庶民一般の服制を法律で定められるといふことは、我が国の歴史上にもまた外国史にもいまだかつて見られなかつた事実であります。それだけにこんどの国民服はただの流行とか、一人一人の好みで自由勝手に作らるべきものでなく、勅令で制定された型を指定通りに作って、着用するのが国民の義務であり、その点が今までの服装に対する観念と大きな差があることを、着用する男子側も充分認識せねばなりませんし、同時に家庭の方々のご理解も大切だと思ひます。