昭和18年の巡査部長試験問題


『警察思潮』昭和18年5月号 警察思潮社

昭和18年度長野県巡査部長試験問題

憲法行政法の大意
一、憲法第一条を説明すべし
二、管理の義務を説明すべし

刑法、刑事訴訟法
一、聴取書の効力に付説明すべし
二、右の語を簡単に説明すべし
(1)戦時窃盗
(2)間接正犯
(3)首服
(4)領置
(5)変死

憲法第一条」とは言うまでもなく大日本帝国憲法第一条大日本帝国万世一系天皇之ヲ統治ス」のこと。これを「説明」するってえのは大変なことである。
「戦時窃盗」については戦時刑事特別法をご覧下され。
ちなみに「首服」とは、「告訴権者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置をゆだねること」なんだそうな。

治安警察
一、最近に於ける左翼運動の方法と其形態に付説明せよ
二、左の語に付説明すべし
(1)東方同志会
(2)協和会会員章
(3)ゾル
(4)食料営団
(5)新聞紙誌の差押

そもそも昭和18年の段階で「左翼運動」など存在したのか? と突っ込むところだが、横浜事件昭和17年9月)パターンで、なんでもかんでも「左翼運動」に仕立て上げていた、ということなのだろう。とりあえず、「方法と其形態」について、おまわり的正解が知りたいものである。
東方同志会」――いわずとしれた中野正剛の一派だが、Wikipediaに、「同年3月、第81帝国議会で戦時刑事特別法の審査をめぐって、6月、第82帝国議会で企業整備法案審議をめぐりそれぞれ政府原案に反対した。」という記述があった。反東條派の一斉検挙が10月26日、中野の自決が昭和18年10月27日だから、すでに戦時刑事特別法に反対を唱えたころから、警察的には要監視団体であったと思われ。

経済警察
一、価格と需要供給との関係を略述し、価格統制の重要性に論及せよ
二、現下経済警察の当面から中尉を注ぐべき事項を列記せよ
三、左に付簡単に説明せよ
(1)国家総動員
(2)賃金
(3)潤滑油
(4)トラスト

治安警察はともかく、「経済警察」がわからんという人はお父さんお母さんに聞いてみよう。とっくの昔に死語となっていたと思ってググったら、和歌山県の「経済警察委員会」というのがヒットしてびっくりした。
問題一の「価格と需要供給との関係を略述し、価格統制の重要性に論及せよ」というのは、最近の経済学部学生さんの試験問題で出したらなんと答えるであろうかと思うと興味津々である。
語句説明でも、国家総動員やトラストはともかく、「賃金」などは戦時下警察的にはなんと答えるのだろうか。
「潤滑油」というのも、なにやらオトナの匂いのするナゾの問題である。