「産業皇道」とは何か? ワカランかった……


栗本勇之助著 勤労者教育中央会編纂 日本勤労叢書第4巻 目黒書店 昭和15年12月10日発行

都内某所にて200円で入手。産業報国会の研修・修養関係のパンフレット類は多々あれど、「産業皇道」とは初めて聞いた。過去に「皇道産業」について調べたときに、焼津に実在した水産会社(=「皇道産業焼津践団」)であったことを知って驚いたことがある。しかし産業皇道とは一体何なのか? そのキーワードは「日本勤労」にあった。

本書の「はじめに」には次のように書いてある。

日本勤労は日本精神の最も具体的に顕現されたものである

いきなり珍カテゴリーの定義から始まるわけだが、これでは何のことやらさっぱりわからない。どうやら「日本精神」というのは本質的・普遍的なもので、それが特殊的・個別的なものにおいて「具体的に顕現」するという設定らしい。ではなぜ「勤労」において「最も具体的に顕現」するのか?

勤労については、従来ややもすれば世人は欧米の自由主義思想に影響されて、その真意義を把握せず、その尊貴なる所以を知らず、為めに社会各方面に幾多の弊害を醸した。今や世界新秩序の黎明に当たって、我等は肇国以来、我が歴史の中に脈々として躍動するまことの「日本勤労」の真精神を明らかにし、これを以て世界を光被せねばならぬ。


欧米流の自由主義は勤労の尊貴をおとしめたが、今やまことの「日本勤労」を明らかにし、「世界を光被せねばならぬ」と――ということなのだろうが、「世界を光被」にはおそれいった。相変わらず、日本勤労のなにが「日本」的なのかはっきりさせないまま、よくもまあ大きく出たものである。

一切の文化は日本勤労によって真の意味に於いて創造発展せしめられ、興亜の大業も亦これによってのみ完遂される。本叢書はかくの如き意味において編纂せるものである。


「一切の文化は……」云々と、大上段に振りかぶっているのだが、戦争に負けてからどんなウヨクのヒトもこんなこと言わなくなっているのだが、どこがどう間違っていたのかハッキリさせてもらいたいものである。

著者の栗本勇之助氏は、栗本鉄工所を一代で築き上げた立志伝中の人物。彼の講演を速記からおこしたものがこの本のようだが、基本的な中身は、統制経済になってもイイ仕事をすればちゃんと利益は出るから心配スルナ、それよりも勤労者諸君をお国のために働かせることに経営者は気を配れ……といったPHPな内容。戦前もこういう経営者精神訓話というのはいっぱいあったのですね。
目の皿のようにして本文中に「日本勤労」「産業皇道」の規定を探してみたが、結局見つからなかった……。