軍国美談「日の丸の力」


昭和15年度 夏季学習帳』神奈川県教育会発行


敵陣に忍び込んだ日本兵が、密かに「支那の国旗」のかわりに「日の丸」を旗竿に掲げる。すると、それを見た他の兵隊が「日の丸だ! 日の丸だ! 進め進め」と勇気百倍して敵陣に突撃、敵兵は一目散に逃げ出した――というもの。よくある類型的な軍国美談ですね。
このお話を読んだ尋常三年の少女が、

一、日の丸の旗を見て皆んなが元気が出た。

二、日の丸の旗がたうたい。

――と、感想を記していました。この夏季学習帳を採点した訓導は、彼女の感想に三重丸をくれています。それだけ大人の教育方針をキッチリと読み取り、求められる方向性を忠実にトレースした「感想」であったわけです。
戦中しばらくまで庶民の間には「日の丸掲揚」の習慣がなく、なかなか自発的な普及はなかったことはよく知られていますが、若い世代に向けてはこうした「日の丸の力」が繰り返し教育されていたのだなということがわかります。