大東亜皇道楽園の出現!

『大東亜皇化の理念』桑原玉市著 国防科学研究叢書、富士書店、昭和17年2月

「大東亜圏諸民族は天孫民族による皇化の実現した時始めて、人類としての生存の光栄と幸福と繁栄とを獲得する事が出来るのである。これ即ち大東亜皇道楽園の出現である。この大東亜皇道楽園の出現こそ民族皇化運動の最終の目標であり民族解放運動の収穫であるべきである。従って即ち大東亜戦争の目的であるのである。」

「民族皇化とは彼ら民族に対する天岩戸開きである訳で、即ち大東亜圏への天照大神の御出現である。天照大神の御出現には必ずその前に祓ひがなされ禊がなされて浄めの行が行われるといふ事は古典の既述によつて明らかである。故に天照大神御出現が大東亜民族に大して行われるといふからには必ず浄めの禊祓が必然であり、そのケガレが深く、酷ければそれ丈猛烈なる沸浄が要請される訳で、弾丸や、爆弾や魚雷による浄めの意義が十分理解出来る訳である。」(102〜103頁)

 この本を編集した「国防科学研究会」は、当時の立命館大学学生課長・栗田典美を委員長に、関西大学学生・本田金次郎を総務においた、関西の大学当局・学生を中心として大東亜戦争開戦直後に結成された組織であったもよう。「高度国防国家建設の指導標建設」をその組織の目的として、大東亜共栄圏を支えるエリート育成のために学生向けの「大東亜指導者講習会」なるものを開催、「思想国防、文化国防、経済国防、科学国防、教育国防の各領域に於てその微力を捧げて殉国精神を発揚」していたようです。まさにナンデモ国防団体ですな。その「講習会」での桑原玉市の講演を収めたものが本書なのだそうです。戦争中は、大学当局がこういう形で学生を組織し、戦場に送り出していたのですね。


 これを読んで、“なるほど、「大東亜解放」とはアジア諸民族の皇化=皇民化ということだったのかぁ!”とあっさり思いました。その意味では“非常にわかりやすく”あけすけに書いてくれていると思います……言葉もないほどヒドイ話です。


 「弾丸や、爆弾や魚雷による浄め」というのも、かなり香ばしい一文でありまして、一体「大東亜圏への天照大神の御出現」とはなんぞや、と問い詰めたいところであります。イメージとしてはファチマの聖母出現みたいな感じでしょうか。


 それにしても「大東亜圏諸民族は天孫民族による皇化の実現した時始めて、人類としての生存の光栄と幸福と繁栄とを獲得する事が出来る」ということは、「皇化」されざるば人に非ずということなのでしょう。なんとエラそうで、なんと他の民族に対する蔑視にもとづいた物言いなのか!


 この桑原玉市という人物、戦後はたぶん公職追放に引っかかっていたのだと思いますが、1958年に福岡工業大学の初代学長の就任(同大学の2代目学長は笹川良一!)。国会図書館で検索しても、この本ともう一冊『原理日本精神研究』(昭和12年)なるトンデモ本が出てくるだけで、一体何が専攻の教授だったのか、さっぱりわかりません。