軍神も観音も天使も靖国へ

主婦之友愛国絵本「靖国の華」
昭和14年5月号 主婦之友社

「主婦之友」といえば、昭和19年12月号でのアメリカ人をぶち殺せ!」スローガンの絶叫や、「滅敵生活」「勝利の特攻生活」などかなりトンデモ度のたかい特集タイトルで小生を悶絶させつづける香ばしい雑誌だが、当時は年間数百万部を誇った巨大メジャー婦人誌であった。この「主婦之友」に折々の付録としてついてきたのが、この「主婦之友愛国絵本」だ。お母様が子どもに読み聞かせる用につくられたらしく、12頁の小冊子の本文にルビはなく、美しい多色刷りで目にも愉しい。「輝く皇軍(陸軍編・海軍編)」「櫻の日本」「菊花のかをり」など、これまた愉快なタイトルが並ぶ中、ひときわ読者の熱涙をさそったと思われるのがここに紹介する靖国の華」である。
「海の軍神広瀬中佐」「陸の軍神橘大隊長」「空の軍神南郷大尉」「戦車の軍神西住大尉」など、修身の教科書でおなじみの神サマが並ぶ軍国美談絵本なのだが、女性誌だけあって、忠君愛国女性への目配りも欠かさない。従軍看護婦美談が二本あげられており、一つは「支那事変」中に南京野戦病院伝染病棟で活躍しコレラに倒れた「白衣の観音竹内喜代子」。もう一つが「日露戦争」で吹雪の大連埠頭で傷病兵を病院船に運び病に倒れた「病院船の天使大熊よし子」。どうやら従軍看護婦には「軍神」に匹敵する呼び名を思いつかなかったようで、「白衣の観音」「病院船の天使」とテキトーな称号を与えられているのが悲しい。「観音」やら「天使」までもが靖国に祀られているという、神学的には奇怪な事態が惹起しているぞーと、いらぬ心配をしてしまう。プロパガンダとしての「みたま」称揚にも、厳然とした男女差別・身分制がしかれていることを感得するひとこまである。せめて靖国神社のカミサマくらいジェンダー・フリーにしてあげればいいのに(苦笑)。
ちなみに本文はすべて山手樹一郎が執筆、『桃太郎侍』で知られる時代小説の大家も若い頃はこんな仕事をしていたようだ。