恐るべき特高外事課の調査活動――暴露されたちょいワル伊太利大使館員のプライベート!

国会図書館で『特高外事月報』を調べてきました。ファシスト少女フランチェスカちゃんの行方は次回にまわして、特高外事課の恐るべき調査活動の一端を紹介しましょう。
昭和18年5月といえば、まだイタリアではバドリオ政権が成立する前、いまだ枢軸国の一角をなす力強い同盟国であったわけだが、特高外事課は、敵国はもちろん、同盟国や中立国の大使館員をみっちりと監視していました。

七、伊太利大使館関係
本大使館に於ては最近特異の活動開係なきも枢軸国として我国を始め独逸、芬蘭、洪牙利、泰等各国並中立国としてスエーデン、アルゼンチン、スイス等の外交官並武官と午餐会或は晩餐会を開催し意見の交換をなし各国間の親睦強化に努めつゝあるが、独逸国に比し其の活躍も不活発にして大使の日常生活に於ても特に見るべきもの無く主として館内に起居し三月二十五日より神奈川県鎌倉市材木町別荘へ随時赴き静養し居れり。
大使付ボーイ伊大利人ロモリ・ピエトロが日本人ボーイに洩したる処に依れば、インデルリ大使は近く更迭するとの噂ありて大使夫人の家具購入等見合し居る趣なり。
特高外事月報』昭和18年5月


思いっきりイタリア大使館は「やる気がない」と烙印されております。そんな中、大使館員はこんなことをヤってました。

空軍武官リカルド・フェデリッチ
同武官は本年一月中旬頃より東京市赤坂区新坂町六九無職田口知子当廿五年を屡々自宅へ出入せしめ、容疑の点ありたるに依り警視庁に於て外諜容疑者として右田口を取調べたる処、次の通り情交開係あること判明、他に容疑事実なきを以て厳重説諭の上釈放せり。右田口知子は昨年八月頃妹と共に赤坂区乃木神社境内を散策中初めてフェデリッチと知り合ひとなりたるが其後屡々接近し居りたる処、偶々本年一月中旬頃同武官邸前に於て出会ふや甘言を以て来訪方勧誘せられたるを以て其後単身訪問したるに、半強制的に情交開係を求められ遂に開係するに至り其後度々訪問して数回に亙り情交開係を結び居りたるものなり。
特高外事月報』昭和18年5月


なんだか、週刊新潮の『黒い報告書』風になってきました。防諜がらみで田口知子容疑者(25歳)をしょっぴいたら、ただの情交関係だったというお話です。しかしペルソナ・ノングラータ、フェデリッチ空軍武官にはおとがめなしというわけですね。ちなみにこのフェデリッチ空軍武官は、大使館員抑留者名簿によると38歳、独身。無聊の日々に耐えかねるヤリたい盛りであったようです。それにしても、戦時下の乃木神社でナンパとは……人と人との出会いの縁は不思議なものですねw

記録官ジョバンニ・フロリオの容疑行動
本名は昨年十月頃より東京市目黒区碑文谷二丁目二一八三番地所在高射砲陣地に定期的に大使館自動車にて来り約二十分位に亙り附近を徘徊し最近に至り日本人婦女子を同乗せしめて帰るを以て警視庁に於ては、同婦女子を取調べたる処右は東京市目黒区碑文谷二丁目二一三八角田喜海当廿三年にして、目下目黒区五反田丸井裁縫店に裁縫研究の為めバスにて通勤し居る者なるが、偶々昨年十二月中旬頃前記高射砲陣地附近の停留所にバス待合中ジョバンニ・フロリオより同乗を勧誘せらるゝまゝに便乗したる処、其後数回に亙り同一行動に出で遂に親密となりたるが其間ジョバンニは拙劣なる日本語を以て種々質問せるも特異なものなかりしがこの侭推移するに於ては諜報其の他に利用せらるゝ事必定なるに依り厳重将来を戒告せり。
特高外事月報』昭和18年5月


特高では高射砲陣地に対する諜報活動かと見ていたようですが、スパイ活動ならば大使館の公用自動車でうろつくわけないでしょ? と思うのであります。やはりこれはナンパでしょう。特高は「情交」ではなく「親密」と表現しているので、ジョバンニの熱い思いは遂げられなかった模様です。以上、レポっす。