頭テカテカの若者に激怒

戦う国の首都、東京
 公務で久し振りに上京したが、ブラブラしている人間の多いのには驚き入った。……倅に連れられて喫茶店に行ったが、二十台の若い者が、同年配の者は手に銃を、ハンマーを、鍬を把っているのに、頭をトンボのようにテカテカさせて、平然としてコーヒーを運んでいる様にはまったく腹が立った。わしの見方は、皮相的かも知れないが、決戦下の首都東京が、こんな有様では困ったものだ。七百万市民の猛省を切望する。(老村長)
(『週報』昭和18年1月13日号 「通風塔」コーナーへの投書)

トンボはそんなに頭がテカテカしてる昆虫であろうか? というところが個人的には気になるが、そんなくだらないことはさておき、この「老村長」氏の憤激は、古代から人類の習慣として根付いてきた「最近の若いモンは……」的愚痴、都市に収奪される地方人の怒り、そして「決戦下なのにたるんどる」的銃後引き締めヒステリーの見事な三重奏であろう。そもそもこの「老村長」氏自身も公務で上京しておきながら、この非常時下に「倅に連れられて喫茶店」でコーヒーとはナニゴトか、と……。
それにしても、(1)昭和18年1月には、まだ喫茶店があり、コーヒーを飲むことが出来た (2)老村長から見て「ブラブラしている人間」っぽい人びとがいた――ということは歴史的証言として、覚えておきませう。