『標準支那語早学』にみる日本軍標準会話

中国侵略と共に、当然にも末端の兵隊さんも中国語を学ぶ必要があったようで、ポケット版「支那語会話」のような小冊子が多数出版されていた。昭和13年に浩文社というところから出版された1冊を入手したので、「戦争・軍事用語」の章から、いくつか紹介してみよう。

日本軍は世界中で一番強い
日軍是世界上最強(リーチエインシーシーチエシアンツイチアン)

日軍飛行機は漢口を爆撃した
日軍飛機轟炸漢口(リーシユインフエイチーホンチアーハンコウ)

漢口は日本軍に占領された
漢口被日本軍佔據了(ハンコウペイリーベンチユインチアンチユーラ)

支那は敗けた
中国打破了(チユンタオターパイラ)

まっ、このへんはお約束ですね。
次の「(イ)偵察」になるとナマナマしい。

「オイ止まれ」 瞎站住(ハイチアンチユー)
「お前に訊ねる」 我問儞(ウオウエンニー)
「本統(ママ)のことを言はないと命を取るぞ」 儞不肯説実話把儞的命要了(ニープーケンシユオシーホアパーニーデミンヤオラ)
「この辺に兵隊はいくらゐるか?」 這辺兒有多少兵(チエーピエルユートオシアオピン)

「(ハ)徴発」もすごい。

「吾々は牛、鶏、家鴨等が必要なのだ」 我們要猪牛鶏鴨甚麽的(ウオーメンヤオニウチユーチーヤーシエンマデ)
「今どんな野菜があるか?」 現在都育甚麽青菜(シエンツアイトウユーシエンマチンツアイ)
「あるだけ持って来てくれ」 有多少給送多少来(ユートオシアンケイスントオシアオライ)

さらに「(二)訊問」になると……

「お前は何と言う名だ?」 儞叫甚麽(ニーチアオシエンマ)
「何処の者だ?」 那兒的人(ナールデレン)
「何をしてゐるか?」 幹甚麽(カンシエンマ)
「胡散臭いぞ」 形跡可疑(シンチーコーイー)
「身体検査をする」 捜捜儞的腰(ソウソウニーデヤオ)
「この拳銃はどうしたのだ?」 這個手槍是幹甚麽的(チユーコシオウチアンシーカンシエンマデ)
「お前は人夫に変装して軍状を偵察に来たのだらう」 儞是化装苦力偵察軍情来的(ニーシーホアチオアンクウリーチエンチアーチユインチンライデ)
「早く白状しろ」 快招認(カイチアオレン)
「でないと銃殺するぞ!」 不然槍斃(プーランチアンピエ)

――なんという会話シナリオ! こーゆー会話帖をカンペしながら、皇軍兵士がたどたどしく訊問し、ワケがわからなくなると「プーランチアンピエッ!」とかと怒鳴ってたんだろーなー。ちょっと怖くなってきた。