竹内てるよの靖国ポエム


『家の光』昭和17年10月号口絵より

靖国の母を讃ふ  竹内てるよ


さくらは
たゞひとたびのひらく日に
花のいのちを かけるときく
君 靖国の母にして
けふの ひかりとなみだ

ひざに抱きたるいくとせを
母の誠と 誓ひもて
大君の
しこのみ楯として死ねとこそ
をしへそだて たまひける

君 靖国の母なれば
まさきく 永く 生きたまへ
母の大儀を 生くる日は
日本女性(やまと をみな)の光栄(さかえ)にて
げにも 世界にたぐひなし

竹内てるよ(1904〜2001)は、アナキスト詩人として出発した後に転向、戦時中は右のような詩を発表していたようだ。美智子皇后が2002年の「国際児童図書評議会」(IBBY)創立50周年記念大会でのスピーチで紹介したことから、あらためて脚光を浴び、その半生はテレビドラマにもなったほどだからご存じの方も多いはず。
靖国の母を讃ふ」というタイトルどおり、忠実に靖国イデオロギーをトレースした凡庸な作品ともいえるが、「ひざに抱きたるいくとせを/母の誠と 誓ひもて/大君の/しこのみ楯として死ねとこそ/をしへそだて たまひける」などというあたりは、今読むとおっかないフレーズではある。
極貧の中にあった竹内てるよを見いだし、ベスト詩集『生命の歌』をベストセラーにしたのは第一書房の伝説の出版人・長谷川巳之吉。この版元から中山省三郎編で1943年に刊行された『国民詩』第二輯には、彼女の「一つの星」が収められている。

とこしへのいのちはひとりのものであつて
とこしへのいのちはひとりのものでなく
生きてゆくものに一つの星であり、
日本は あまたその星をもちます。


という部分など、「靖国の母を讃える」の思想と通底する「いのち」感が横溢している。こちらのほうがヨリ洗練された表現になっているぶん、じんわりと怖くなってくる作品だ。