「人間完成」昭和13年10月号 純真社刊

発行人は岡本利吉。人工言語「ボアーボム」を考案したややトンデモ系人物だとだけ覚えていたので、古書店のワゴンで即買いしたのだが、帰って調べてみると、日本の消費組合運動の草分けの一人と知って驚愕した。(協同組合人物略伝

岡本先生のご高説は、実業倫理とも言うべき内容で、大して面白くないのだが、田中五郎による「日本精神の宣揚と岡本理学」が少々興味深し。

日本精神の尊い所以は、人としての真にあるべき姿を真に実現しているところにあらねばならぬ。日本人こそ、世界人類の内で最も正しい理想実現者であらねばならぬ。

――といったくだりは、当時有りがちな日本精神至上主義で、なんのことはない愚論なのだが、この岡本論文が面白いのは次のように問題をたてているところにある。

ひとり日本人のみ正しい道を歩んで来たに反し、西洋人は何故邪道に陥ったのであろうか。

普通、日本主義な人はそこから神国日本の皇統連綿ぶりとか多神教としての神道の優位性とかを説くのであるが、田中先生は何を思ったか

思うに日本は絶海の島国であり、温帯に属して他国から禍いされることなく、農耕を主として素直に生活して来たからである。他国の災害は戦禍であるに比べて、日本の災害は天災である。此の戦禍と天災との差異が、日本精神と西洋の物質主義とに分かれるようになった原因であると思う

と、小学生の夏休み自由研究のようなことを書いているのが、かなりイタタタである。