この夏のおすすめ本いろいろ

しばらくブログの方はお休みしていましたが、ようやく再開です。現在進めている単行本企画にまつわる資料など、数年ぶりに集中して読書する機会があり、これはヨカッタという本をいくつかご紹介します。


ナチスのキッチン

ナチスのキッチン

すでにtwitterでは何度か言及しましたが、これは今年の夏の最大のヒットでした。ナチス台頭以前の、ベーベル『婦人論』経由のドイツ社民党の影響下にあった建築家のキッチンの構想やバウハウス系のキッチンのプランなどを筆頭に、ナチス政権下のカリスマ主婦や、当時のメジャーなレシピ本をとりあげ、丹念に読み解く秀逸な作品です。これは本当におすすめです。


稲の大東亜共栄圏―帝国日本の「緑の革命」 (歴史文化ライブラリー)

稲の大東亜共栄圏―帝国日本の「緑の革命」 (歴史文化ライブラリー)

ナチスのキッチン』と同じ著者による、「稲」を軸として大東亜共栄圏の一面を描き出した秀作。品種改良された稲が、満州、朝鮮、台湾にどのように移植されていったのかをたどり、あわせてテクノロジーによる植民地支配について考察する興味深い一冊です。陸羽一三二号や農林一号など、戦前に一世を風靡した優良品種にまつわるエピソードをはじめ、化学肥料と農業支配の関係(「緑の革命」の大東亜共栄圏版!)など、この本から派生していろいろ調べたくなる本。


お母さんは忙しくなるばかり―家事労働とテクノロジーの社会史

お母さんは忙しくなるばかり―家事労働とテクノロジーの社会史

これは『ナチスのキッチン』で随所に引用されていた本です。しばらく前からこの本の原書の存在は知っていましたが、邦訳が出ていたとは。家事とテクノロジーというテーマは、身近な題材だけに本当に面白いです。


家事とテクノロジーの関係で言えば、近代日本食の成立過程を軽妙な筆致で描き出したこの本がおすすめです。関東大震災後に普及した都市ガスが家庭料理をレシピから変えてしまったとか、日本で中華料理が普及したのは日清・日露戦争の後だったとか、「へぇー」多しです。


昭和切手とその集め方 (1985年)

昭和切手とその集め方 (1985年)

切手収集とは縁なき衆生だったのですが、戦前に発行された「勅額切手」(筥崎宮の「敵国降伏」の勅額を図案化したもの)について調べていて、この本を教えられました。切手趣味というのは非常に奥が深いもので、図案はもちろん、印刷方法や印刷時期の違い、またエンタイヤの多少やスタンプとの関係などなど、驚くほどの情報がぎっしり詰まっていて、切手マニアだけでなく、印刷マニアや戦時通信研究者など、いろいろな楽しみ方が出来る本です。あまりに内容が濃すぎて、まだ通読できていません。


愛と欲望のナチズム (講談社選書メチエ)

愛と欲望のナチズム (講談社選書メチエ)

これはもうすぐ出る本ですが、この著者の『魅惑する帝国』が方法論といいセンスといい、あまりにもよかったので、大いに期待しています。「FKKもあるよ」、とのことです。