長崎浩に『共同体の救済と病理』なんて今さら言われたくない!
・朝日新聞8月21日書評
姜尚中が長崎浩著『共同体の救済と病理』(作品社)について書評を書いている。見出しに「革命への熱狂が生む逆ユートピアの悲惨」なんて文字が踊っていて、思わずそそられてしまうが、書評を読む限り中身はきわめて残念な本。「オウム真理教や人民寺院、新左翼の前衛組織やロシア革命の労農兵士ソビエト、さらにパリ・コミューンに至るまで、さまざまな衣装をまとった共同体を、フロイトの集団心理学を手がかりに古代ユダヤ教罪悪共同体や受苦共同体とダブらせて論じる知的な力技には驚くばかりだ」――と言うのは一見面白そうだが、実はライヒが「性経済」概念をもちいてファシズムを解き明かそうとした1930年代の営為以前の地平に長崎浩が退行していることの証左であろう。歴史的なあれこれの「共同体」を二次元的に「ダブ」らせてはならないのであって、そこには歴史的類推についての方法論が欠けている。逆ユートピアを「病理」と呼ぶのも、アウトサイダーアートを「病理」としてみるのと同じくらい客観主義的でツマンネー視座でありまして、エコに逃げた転向者・長崎浩の無反省ぶりからくる「高み」に反吐が出そうである。(わかりやすい例で言えば、『邪宗門』の高橋和己は「病理」としてなんか描き出してねえよ!)
姜が最後に「するどい」といってみせる3・11以後の「災害ユートピア」についてはすでにレベッカ・ソルニットが書いているし、長崎が彼女よりも突っ込んで書けるとは到底思えない。どうせ印象批評なんだろうが、「災難の商品化だ」と反時代的に書いてみろよ元新左翼の理論家だったらよぉ!と挑発したくなるのである。
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・読売新聞
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書評欄、『刑務所図書館の人びと』はちょっと面白そう、くらいか。