愛国者のための貯金器「愛国弾」の出現!

 なによりもまず、〈正しい愛国心〉を身につけるためには貯金をしなければならぬ。身銭を切って窮乏に耐えてこそ、真の愛国心は鍛えられるのである。ろくな貯金もせずに国家にご奉公をしない、口先だけの「愛国心」など屁の役にも立たないのだ。「国を守るために自衛隊に入る」だって? ばっかもーん、そいつが偽愛国者だ〜(納谷五郎風に)。自衛隊員の給料はどうやってまかなわれているか考えてみたまえ。そんなことはスイスの牧童だって知っておるよ。君、愛国者の合い言葉は「貯蓄報国」だよ。

〈正しい愛国心〉を身につけるための第一歩に、貯金をおすすめしたい。ナニ、郵政民営化以降の郵便局に現ナマをもっていっても外資にかっさわれるだけだって? だったら貯金箱を活用したまえ。この「爆弾型「貯金器」愛国弾」を使いたまえ。


……ということで、件の物件がこちら。



『青年』昭和14年9月号掲載広告


注文するには、手紙に「爆弾型「愛国弾」送れ」と書いて切手か為替を入れて業者までおくることになっていたらしいが、手紙が検閲されて第2・第3の大逆事件につながらないか心配になるような物騒なネーミングだ。
座薬を思わせる美しい流線型のデザイン、現物は銀色に輝いていたようで、黒い台は漆塗りであった。

支那事変の花、荒鷲の爆弾と同じ型で日ノ丸入りの鮮やかな総銀色です。台は艶のある黒い漆です。美しいことは眼もさめるばかりの高級貯金器で皆さんの机の上に、お床に上品な置物となり一生大切に可愛がつて頂け精神を引きしめるのに大変役立ちます。


これが床の間に飾ってあった日には「おーアンタも愛国者か!」と、気まずい初対面でも話がはずむこと請け合い。お見合いの座敷では「あとは若い二人で……」コーナーの最初の話題はコレだよね。台からはずして上下に振られなければ、中身が空っぽでも大丈夫っす。出征して銃弾に斃れても、末期の言葉は「爆弾貯金器……あれは、いいものだぁ」できまりですね。しかし、床の間に貯金箱をおいといて本当に役に立つのか。

こんなに美しいものがこんなに安くと驚かれ、大好評、大評判です。早く注文して国策線を行く貯金報国運動に参加し、長期建設をめざして躍進する日本の国民として立派に責任を果たしませう


〈国策線〉というのは見慣れぬ言葉だが、当時はこんな時局用語があったんですね。とにかく日本の国民としての立派な責任をはたすためには何よりもまず「貯金」であるというありがたいお言葉である。問題はこの爆弾型貯金器、コインをどこから入れるのだろうか?