銃後といふ不思議な町を丘で見た

65回目の敗戦記念日の未明に、『渡邉白泉全句集』(沖積舎)を読んだ。

玉音を理解せし者前に出よ


日の丸のはたを一枚海にやる


兵隊が七人海へ行進す


靖国の社の夏は榊萎え


塹壕に果実が紅く血が蒼し


銃後といふ不思議な町を丘で見た


赤く蒼く黄色く黒く戦死せり


戦場へ手ゆき足ゆき胴ゆけり


憲兵の前で滑つてころんぢやつた


戦争が廊下の奥に立つてゐた


夏の海水兵ひとり紛失す


油脂弾の油脂の甘さよ兵の春


寺焼けずここより焦土渚まで


戦友の頭のありしところかな 

表題にした「銃後といふ……」の句は、本当は拙著の帯に引用したかったのですが、やはり軽々には載せられない句なのでやめました。
これと「戦争が……」の両句は非常に有名だけど、「戦友の頭の……」もすごい。
「寺焼けず……」の句には、現在90数歳になる大先輩の、「復員して東京に戻ってくると、新宿駅のホームから隅田川のきらめきが見えた」という言葉を思い出した。
沖積舎の全句集を買ったのは、渡邉白泉と高柳重信だけ。何度読んでもよいですね。


渡邊白泉全句集

渡邊白泉全句集