戦争の責任はルーズベルトにあり


『独逸対米宣言 戦争の責任はルーズベルトにあり』独逸研究所編 新東亜協会発行 昭和17年1月

対米宣戦布告直後の、ヒトラーによドイツ国会での演説を集めたパンフレット。「開戦の責任はルーズベルトにあり」とヒトラーが絶叫するのは、まあお約束だろう。ヒトラーの演説をキチンと読んだことはなかったが、かなりルサンチマンまるだしで笑った。

合衆国とドイツとの間に生じた二つの紛争は、ウツドロウ・ウイルソンとフランクリン・ルーズヴエルトなる二人の男のしでかした仕事に外ならない……
ルーズヴエルトは甚だ富裕な家庭の出で民主主義に於ける成功及び経歴が生まれ乍らにして具備している人間の階級に属している。然し余自身は小さい貧困な家に生まれ自らの道を多数の困難と遭遇し乍らも切り拓いて行かなければならなかった。

わが総統は、開戦責任を論ずるに当たって、ルーズヴェルトと自分の「血統」の違いから説き起こしている。まさに徹底した血統主義で、余人にはマネのできない進行性麻痺ぶりである。こういうくだらない演説を、ナチス国会議員の諸君はかしこまって拝聴していたのであろう。

ルーズヴエルトは第一次世界大戦を煎じ成金の観点から体験したのだった。彼は夫れであるから民族及び国際間の紛争は他の人々が血を流しているにも拘わらず大儲けをする為に与えられた機会として極めてぼろい結果としてのみ知っているのである。同時期に於てヒトラーは一兵卒として戦線に於いてその義務を履行し、又従来と同様、貧乏なまま戦争から凱旋したのである。

血をすすった金持ち成金に対して、国民の義務をきちんと果たす貧乏一兵卒=ヒトラー天誅を下す、という誠にわかりやすい構図である。ルーズヴェルトは対ドイツ戦争賠償をむさぼったアメリカの人格的代表者として、そしてヒトラーは「借金は払えん!」と決起した貧乏ドイツの人格的代表者として、ここでは描き出されている。当時としてはかなり計算されたレトリックであったのだろうが、冷静に見てみると、恥ずかしいほどのコンプレックスの吐露以外のなにものでもない。